五十萬字以上に及ぶこの大作の翻訳は約2年という歳月を費やし、出版に至ったのは北京オリンピック開催に湧く、2008年のことであった。余華本人が訪日してテレビ、雑誌の取材を受けるなどプロモーションを展開したこともあり、さらに読者の口コミなどで、近年の中國文學の中では比較的話題の作品として多く日本人に読まれ、好評を博した。さらに二年後には文春文庫として発売された。日本では単行本である程度の売れ行きのよかったものしか文庫本にはならない。わたしが翻訳した本の中でも文庫になったものは、しかも単行本の発売後、わずか二年でそうなったのは『兄弟』だけである。中國文學の他の作家の作品でも、このような幸福な経緯をたどれる作品は決して多くない。
山田詠美や中野翠など、中國文學とはあまり縁のなさそうな著名女性作家たちも、コラムで大絶賛してくれた。SNSなどには中國文學を初めて読んで面白いと思ったという読者の感想も寄せられた。わたしもカルチャーセンターや大學での講演などでは、講演を聞きにきてくれたお客さんから「『兄弟』読みました」と聲をかけられることがいまだに多い。
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